japanjoboji blog

浄法寺漆産業 一人社長のブログです。 漆の産地、岩手県浄法寺の漆や漆器のこと、その他いろいろつづります。

平泉、世界遺産に

f:id:japanjoboji:20090725013339j:image:left 岩手県民として待ち遠しかった、平泉の世界遺産登録。とても嬉しいです。

平泉についてはこれまでもblogで取り上げてきましたけど、漆芸の傑作ともいうべき中尊寺金色堂が象徴的です。

先日、松田権六(人間国宝で「漆聖」といわれた、日本漆芸界の大先生)の「うるしのつや」という本を読んだのですが、中尊寺金色堂にまつわるエピソードが載っていたので紹介したいと思います(長いです。)




 私は一人の外国人のことを語っておかなければならない。私がこれまでに金色堂に案内したたくさんの人々の中で、最も見事な態度を示された方として印象深いのである。それが外国の人であったことにも私は強い感銘を受けた。


 昭和の初めごろのこと、東京美術学校の助教授の時代である。イギリスのダンヒル商会の重役、コート氏が日本へ来られた。氏は、パリの支店長をされていたが、よく古美術のわかる人であった。ミスター・コートは、シベリヤ鉄道経由で朝鮮半島から日本へ渡ることになった。私は下関で氏を迎え、そこから一緒に、瀬戸内の各所を案内しながら東上してきた。日光を訪ね、さらに平泉へ出かけた。


 中尊寺へ着き、弁慶堂の前まで来ると、ちょうど山から薪をかついできたおじいさんが堂の前まで来ると、堂内に念ずるように丁寧なおじぎをして去っていった。じっとその様子を見ていたミスター・コートが早速私に尋ねた。
 「今、非常に信仰心の厚い姿を見た。あれはだれか。」「この近所の人ですよ。たまたま仕事の都合でお堂の前を通ったので、頭を下げていったのでしょう。」と私は答えた。

 するとミスター・コートは「あのお堂の中には何がまつられているのか、ひとつ見せてほしい」といわれた。弁慶堂の住職は佐々木亮徳さんであった。後で金色堂大修理に力を尽くされることになるのだが、そんなことになるとは思いもよらなかった。

 ともかく、わけを話すと快く見せてくださった。桜本坊では、佐々木実高和尚が「お見せするような物がないので」と、能を一番舞ってくださった。そして最後に、ミスター・コートのために金色堂の中を拝観させていただけないかとお願いした。快く承諾されて、金色堂へ向かった。


 ミスター・コートは堂内に入るや否や、大きな体の膝を折って、そこにへたりこんでしまったのである。私はびっくりした。もらった座布団を当てもしないで、床に跪いたまま、長い間目を閉じ、祈っているように見えた。荘厳さに打たれ、随喜の涙を流さんばかりの感動ぶりだった。私も何度も足を運んでいたところだし、いろんな方を案内もしたが、こんなに見事な感動の仕方を知らない。

 金色堂を出た後に、彼は「かねて、美術の世界で、崇高美とか荘厳美とかいわれるが、その実際がどんなものかを初めて知ったのです」としみじみ語った。目にはいっぱい涙をたたえていた。

 松田権六も驚いた外国人の方の感動ぶり、今も通じるところがあるのでしょうか。当時は大修復の前で、今のような目映ゆい姿の金色堂ではありませんでした。岩波写真文庫「平泉」や土門拳「古寺巡礼」で見られるような、古くて歴史の長さを感じさせるような姿です。しかし、修復前の金色堂にはモノクロ写真でもググっと心に迫るような迫力を感じるのです。

 いずれ、平泉の世界遺産登録は浄土思想の具現化を評価されてのこと。エピソードにあるような信心深いおじいさんを見ることは少なくなりましたが、我々が少しでもそのような意識を持たないとダメかもしれませんね。