japanjoboji blog

浄法寺漆産業 一人社長のブログです。 漆の産地、岩手県浄法寺の漆や漆器のこと、その他いろいろつづります。

浄法寺漆事情

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最近というか、ここ一年くらいのことですが、どこへ行っても「浄法寺漆は日光で全部買い占められたから、買いたくても買えないし、値段も高い」という話を耳にします。
実際、買い占めの事実はないですし、逆にここ数年は生産量が増え、従来のお客様にも十分に漆が行き渡るように確保しているのです。
それでも景気低迷の影響は強く、これまでずっと浄法寺漆を買っていただいていた漆屋さん、漆器屋さんからの注文も激減しています。これは今までにもないことでした。

漆の生産調整は難しく、漆掻き職人が漆の木を育てているわけではないので、山主との調整が必要になってきます。
数年先を見越して漆林を買い付けますが、最近はまた漆が売れなくなってきているので、原木が売れないとなると山主は掻き頃の漆の木でも切ってしまうこともあります。原木が確実に安定的に売れる状況でないと山主が漆を植えるメリットはなくなります。

そのような中で、漆掻き職人は浄法寺周辺から青森県まで出向き、自ら山を歩いて漆の木を探し、数百本を投資的に買うのです。今では数百本がまとまって植えられているところも少なくなっていて、一日100本ずつ手がけ、4日おきに一回りするという漆掻きのサイクルで効率よく回るのも一苦労です。漆掻きにかかるコストは年々高まる一方です。
職人が若い頃には出稼ぎで現地に住みこんで漆掻きをしていたものですが、高齢化が進んだ今ではそんな人はいませんし、遠方の漆林もどんどん伐採されほとんど残っていません。

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漆の木に傷を付けるということは、木の健康状態を見ながら山の恵みをありがたく頂戴するということでもあり、適当に傷をつけて無駄にしてしまうということは職人にとってありえないことです。
なので、一度傷を付けた木は「殺し掻き」という一番量が採れる手法で丁寧に採り、ベテランの職人ほど多くの漆液を採取します。これは明治時代からずっと行われてきた手法。
でも漆の需要が減ってくれば「養生掻き」という、数年かけて採る方法も復活するかもしれません。実際にやっている方もいます。

そして、昔のように漆の木が畑にたくさん植えられているときは良かったのですが、農作業の邪魔になって山地に植えることが多くなりました。高齢の職人は急斜面での漆掻きができなくなってきています。遠くまでの車の運転も億劫になってきたようです。

先日木曽から組合の方々が来たときにもそんな話になったのですが、浄法寺で漆掻きを見たり、職人から直接話を聞いて現状に驚いていました。

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日光では現在家康公没後400年ということで、2015年に開催予定の「400年祭」を目標に修理修復が行われています。日光は有名な東照宮のほかに二荒山神社輪王寺があり、二社一寺と呼ばれています。この全体の修復用の漆として浄法寺漆が100%採用されました。

漆関係者でない人からすると、世界遺産や国宝級の文化財を日本産の漆で修理修復するのは当然のことのように思うでしょうが、実際は多くの修復に中国産漆が使われているのです。予算を考えるとどうしても中国産を使わなければならないようです。

でも...100%とは言わなくても、1割、2割でも良いので、国産漆を使っていただけたらありがたいのです。決して中国産が悪いと言っているのではないのですよ。


でもこういう意見は業界では少数派です。中国産が圧倒的に使われている漆器業界ですし、漆塗り風の塗装も多い世の中。自然の漆を使っていないのに「●●漆」といって売られていたりします。現在は漆全体の消費量も激減していて、10年ほどまえに100トン超の輸入があったのが、最近では40トンまで減っているのです。

国産漆はほとんど駆逐されてしまっているので、これ以上国産漆を使わないところが増えると、もう絶えるしかありません。浄法寺に来た輪島の塗師屋さんも言っていましたが、「21世紀前半には漆工芸は完全に滅びる」と。

伝統工芸全体にも言えるかもしれませんが、国産漆はほんとうに四面楚歌でギリギリのところを歩んでいます。ライフスタイルの変化だから仕方がないという人もいますけど、それは本質ではなく、戦後の漆器業界がそういう方向に主導していったところが大きいと思っています。

「踏ん張って頑張ってほしい」という声は聞きますが、少しでも漆器を買って使ってみたり、漆のことを話題にしてみたり、そういうアクションをちょっとでも起こしていただけたら嬉しいのです。
衰退産業はやはり何がしかのイノベーションがないとそのまま衰退する一方。漆掻きや漆精製についても新しい発想が必要とされているのです。地元ならではの発想で乗り切っていくしかありません。


11月16日、17日に奥州市の生母生産森林組合が、約2ヘクタールの山林に漆苗木を植えます。県南地域でははじめての大規模な試み。金色堂をはじめとする平泉の遺産をこの漆で修理・修復できたらという夢もあります。

組合長の大石さんはご高齢で、「漆掻きする頃には自分はもういないけど、松沢さん、あとは頼んだよ」とおっしゃってますが、今の私よりもエネルギッシュな方で、大石さんのリーダーシップがなければこういう事業はなかなかできません。

期待に応えるため、自分のためにも漆の苗木を私も植えてきます!