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japanjoboji blog

浄法寺漆産業 一人社長のブログです。 漆の産地、岩手県浄法寺の漆や漆器のこと、その他いろいろつづります。

環境と漆

 前回の続きです。ちょっと長いです(笑

 それで、平成13年度から16年度まで、廃棄物やリサイクルを担当する環境生活部の資源循環推進課という課にいたのですが、この4年間は上司と同僚と仕事に恵まれ、忙しいながらもとても充実していました。
 当時は全国的に不法投棄事件が多発していて、まだ「環境」の仕事が規制的な意味合いを強く持っていました。岩手県は他の都道府県に先駆けて先進的な環境施策を導入していったのですが、そのきっかけは平成12年の年末に発覚した、岩手と青森の県境での大規模な産業廃棄物不法投棄事件だったのです。私が同課に配属されてはじめに担当したのがこの事件でした。

 この岩手・青森県境産業廃棄物不法投棄事件は当時国内最大級の不法投棄で、それまで日本一といわれた香川県豊島の不法投棄(46万立法メートル)を上回る、82万立方メートルの産廃が投棄されました。その廃棄物のほとんどが首都圏の事業者から出た産廃で、埼玉県と青森県の産廃業者が共謀して岩手と青森の県境(二戸市と青森県田子町にまたがるエリア:約27ヘクタール)までわざわざ投棄しに来ていたのです。「廃棄物のデパート」と言われるくらいの多種多様な廃棄物が両県の県境をまたいで投棄されました。
 もともと現場は牧草地帯で、放牧された牛がのどかに草をはんでいるようなところ。現場までの県道も道幅が狭く、なんでこんなところまで大型トラックでわざわざと思うような場所です。そんな場所の青森県側になぜか産廃の処理施設があって、八戸の業者が産廃処理業を営んでいました。

 現場には大型重機で深く穴を掘った中に廃油入りのドラム缶がそのまま投棄され、漏れ出した有機系塩素化合物(ジクロロメタン、テトラクロロエチレン)が土壌を汚染していました。私も当時現場の撤去作業に立会いましたが、大量の燃え殻や食品廃棄物を目のあたりにし、現場一帯を漂う強烈な揮発油の悪臭にかなりショックを受けました。周囲の風景とまったく違う様相を呈した廃棄物の山と重機が掘削した大きな穴。異様な光景でした。
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 事件の詳しい経緯はこちら
http://www.pref.iwate.jp/view.rbz?nd=2690&of=1&ik=1&pnp=50&pnp=2648&pnp=2690&cd=448
http://www.soumu.go.jp/kouchoi/substance/chosei/pdf/feature/iwa_ao.pdf (PDF)
http://www.daily-tohoku.co.jp/tiiki_tokuho/industry-waste/industry-waste-top.htm (デーリー東北)

 岩手県側だけでも合計32万トン!を超える廃棄物と汚染された土壌が残され、今も撤去作業が続いています。詳しい話をすると長くなるので興味のある方は上記の参考HPをどうぞ。
 いずれ不名誉な日本一の産廃不法投棄事件を担当し、その後も廃棄物やリサイクルの仕事に携わったことは私の大きな糧となりました。当時の職員の共通認識は、首都圏から大量の廃棄物が投棄されたことの悔しさと、二度と岩手でこのような事件を起こさせないということでした。国内でもここまで徹底的に排出事業者の責任を追及した自治体はないでしょう。
 行政として法律の範囲内でできる限りのことをするというのは当然であって、法律スレスレ、ギリギリまで考えた末の施策を講じました。通常、廃棄物を撤去するときは行政の負担で行政代執行をすることが多いのですが、できるかぎり税金の投入を防ぐため、全国で初めて民事の仮差押えを行って不法投棄者の財産を差し押さえ撤去費を確保したりしました。緊急的に撤去しなければならないのはもちろんですが、責任を問わないまま安易に税金を使うというのはおかしいですからね。いまでも県では排出事業者の調査を続いており、追及の手を緩めていません。

 そして次に転勤した先が二戸地方振興局の林務部というところでした。そこで浄法寺漆の担当となったわけですが、転勤してきた当時は、不法投棄事件と連続して地元の二戸地域にかかわる仕事をすることに少し縁を感じた程度でした。でも、漆のことを少しずつ勉強していくにつれ、その縁がだんだん太く強くなっていきました。

 初めての漆の仕事で浄法寺の漆林の様子を見に行ったとき、漆林まで続くその道は以前私が不法投棄現場まで通った県道でした。廃棄物の仕事をしていた当時は漆のことなんて全然考えもしなかったのですが、実はそこは日本文化財漆協会の大規模な漆の植栽地が近くにあり、漆掻き職人の家も点在している場所だったのです。
 日本一の産廃不法投棄事件が起きた場所は、日本一の漆の産地でした。
 
 廃棄物の不法投棄を岩手から無くそう!と、行政として様々な施策を講じましたが、それでも個人的にはなんだかモヤモヤしたものが残っていました。
 業界には「捨て得」という言葉があるのですが、「捨て得を許さない」と言ってもすでに得をさせてしまっている(後始末はつけさせますが)のです。それに首都圏の廃棄物がなぜこんな人里離れた山村にという悔しさもありました。
 実は産業廃棄物の処理も経済活動の一つなので、県境を超えて流通し処理されていることが多いのですが、岩手県も大量の廃棄物を各地から受け入れています。そこで北東北の三県は「自圏内処理」の原則を打ち出して、自分たちの出したゴミは出来る限り自分たちの県(圏域)で処理しましょうと取り組んでいます。

 浄法寺漆は日本一の質と量を誇る一大産地、と声高に言っているわりにはあまり世間には知られていません。逆に不名誉な不法投棄事件のことばかりが毎日ニュースになって、二戸や浄法寺、隣の田子町も逆に風評被害に悩まされました。香川県の豊島もそうだったと聞きます。そのことがずっと私の心の中で疼いていました。

 二戸から全国に逆に知らしめるというか、いい意味での「意趣返し」的なことができないものかと考えた時(即思いつきましたが)、それがまさに浄法寺漆だったのですが、残念なことに浄法寺漆も存亡の危機にありました。安価な中国産が99%を占める日本の漆業界の間でもマイナーな存在となっていたのです。外的要因で二戸地域の環境が汚染され、特産である漆も無くなってしまうというのは本当に辛いことでした。
 でも、たぶんそんなことを考えるのは私くらいだし、そういう仕事を任されたというのは本当にめぐり合わせだったのだなあと思います。このときほど強い縁を感じたことはありませんでした。ちなみに二戸市の漆担当職員も以前廃棄物を担当している方でした。
 私は浄法寺の出身ではないですが、両親は岩手県北の出身(安代と葛巻)だし、ここの風土はとても自分に合っていました。もちろん漆という素材の持つ様々な魅力に惹かれたことも大きいです。前にもブログで書いたとおり、漆は「グリーンケミストリー」の典型的な素材で、不法投棄された揮発性有機化合物とは対極にあったりします。
 
 恐らく県職員でここまで漆にのめり込んだ奴はいなかっただろうと自負していますが、それはこんなバックグラウンドがあったからです。
 この話は県を退職するとき、資源循環推進課のOBの方々が開いてくれた送別会でしか話していないことでしたが、起業してそろそろ1年経つのでここらで自分の考えを文章にしてもいいかなと思って書いてみました。

 こんな長文なのに読んで頂きありがとうございました〜